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RELEASE

福富幸宏

equality

2004年10月28日

Club, Jazz

FRCD-126

FILE RECORDS

税込定価 ¥2,730

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iTunes tower.jp HMV amazon

TRACK LIST

01.Equality feat.Rich Medina
02.Peace feat.Lady Alma
03.All over the world feat.Victor Davies
04.Love is to blame feat.Isabelle Antena and Ernesto
05.Cat and Mouse feat.Ernesto
06.Killing time
07.Is it... feat.Lori Fine
08.Road to nowhere
09.The tambour
10.Continuous function
11.Equality Part.2 feat.Rich Medina
12.Hooked feat.Lady Alma

作品紹介

世界の福富幸宏、3年ぶりのアルバムが遂に完成。
ハウス、ジャズ、ブラジリアン、テクノなど様々なエッセンスをBPM125の世界で交差させた怪物盤!!
ゲストにIsabelle Antena、Victor Davies、Lady Alma、Rich Medina、吉澤はじめ他、彼の持つ世界中のコネクションが集結。

ライナーノーツ
 新しいCDをトレイに入れて、プレイボダンを押してみる。スピーカーから流れだすダンス・ミュージックに思わずからだが揺さぶられ、と同時に頭のなかが何か冴え冴えとし、それでいて頬も緩んできてしまうような......そういう感覚。日々新しい音に囲まれているような環境に身を置いていたとしてもそんな作品に出会えることはめったにない。福富幸宏が久々に届けてくれた新作『equality』は間違いなくそんな音楽的興奮に溢れている作品だと思う。実に得難いアルバムなのだ。
 質の高いクラブ・ミュージックに耳ざといリスナーなら、これまでにも福富幸宏の音楽に何らかのかたちで触れてきているだろう。日本のクラブ・ミュージック・シーンがかたちを成しはじめた90年代の頭から、福富のアルバムはコンスタントに発表されている。とくに2000年以降の諸作、『On A Trip』『Timeless』『Love Each Other』といったアルバムでは、福富が言う「クロスオーヴァー・ダンス・ミュージック」という名に相応しい充実した成果をはっきりかたちに残してきている。ハウスを支柱に、ジャズ、ブラジル、ラテン、そしてブロークン・ビーツなどの実験的で可能性豊かなサウンドが、ダンスミュージックの「今」に純粋なベクトルで結晶化した音楽。福富流の「クロスオーヴァー・ダンス・ミュージック」とはそのような音楽であり、その高い評価は、すでに海外でも根づいているといえるだろう。ドイツやイギリスやイタリアの先進的なレーベルからのシングル・リリースや、リミックスのオファーなどはその端的なあらわれだ。ただこの国では、福富の音楽はしばしば通好みと称されてきたフシがある。クラブで音を楽しむということ自体がまだ発展の途中にある事情をふり返れば、彼の音楽はたしかに「大人」なのかも知れない。だが一部のコアなミュージック・ラヴァーたちを頷かせるだけのものではないはずだ。福富の音楽世界では何よりも音が主役である。純粋に音そのものの魅力を組み上げ、音楽を雄弁に語り切ろうとするそのアーティストシップはとてもシンプルで、それゆえ間口も広いものなのだ。

 『equality』の聞き所についてざっと書いてみよう。何より耳をひくのは魅力溢れるヴォイス・パフォーマーたちのゴージャスなセッションだろう。もちろん彼らはメインストリームに身をおくシンガーではない。やはりクロスオーヴァーという有機的なヴィジョンのもと福富の音楽に引き寄せられていったクラブ・ミュージック・シーンのスターたちである。タイトル・トラック"Equality"(「平等」とか「等値」と訳される」)でポエトリー・リーディングを披露するリッチ・メディーナはニュージャージー出身のオールド・スクーラーで、現在はフィラデルフィアを拠点に各地を飛び回る才人。抜群のニュアンスで音の隙間を際立たせていく言葉置きの巧みさ、詩世界のディープネス、透徹したポリティクスにおいて今もっとっも注目されるヴォイス・パフォーマーである。190センチを越える長身を共鳴させて繰出されるディープ極まりないブラック・ヴォイス、シンコペイトしまくるオーガニックな変則ビーツ(ゲンタのコンガ!)、その上を滑るように転がる吉澤はじめの瑞々しいローズ・ピアノ、とオープニングにしてもう鳥肌もののカッコよさだ。
 続く"Peace"では、4ヒーロー、バグジ・イン・ジ・アティック、キング・ブリット、ケメティックジャストなとの共演で知られる、クロスオーヴァー・シーンのディーヴァ=レディー・アルマことアルマ・ホートンが登場。ゴスペルの下地をうかがわせる懐深く温かなヴァイブに満ちた歌い回しがゴキゲンだ。80sのエレクトロ・ポップ感がほんのり漂うキャッチーなトラックとコーラス、そこを軽やかに泳ぐアルマの歌! ここで聴かせる可愛らしさとファンキーさとのバランスは何度聴いても頬がゆるんでしまう。
 そして、イースト・ロンドン出身のシンガーソングライター、ヴィクター・ディヴィスが"All Over The World"を歌う。すこぶるドープな福富のブラジリアントラックに、ヴィクターらしいセンシティヴな感情吐露が見事にシンクロする。郷愁を誘うオールド・サンバとブロークンビーツ、ボトムはクラブ・ミュージックでならではのベース・サウンドだ。この曲はヴィクターをゲストに招いたあらゆる曲のなかでもベストといえる曲だと思う。
 リッチが「平等」を提示し、アルマが「平和」を求め、ヴィクターは世界を憂える。この流れにそって到達するのが、イザベル・アンテナ(フランス)とアーネスト(スウェーデン)が歌う"Love Is To Blame"だ。おそらく20は年の離れた世代もバックグラウンドも異なる二人が、ボッサ調のトラックで愛について歌う場を持てたのは、まさに福富の橋渡しがあってこそ。そしてこの共演は、長い間「自由」なスタンスの音楽に惹かれ続けてきたものには、なかなか感慨深い味わいがあるものなのだ。
 82年、アンテナはブリュッセルの新興インディーズ・レーベル、クレプスキュールから"The Boy  From Ipannema"をリリースした。ボサノヴァの名曲を素朴な機材をつかってテクノ・ポップ風にアレンジした彼らが(初期は3人組のユニット)一躍脚光を浴びのはもうかなり懐しい話になったが、あのころパンク〜ニューウェイヴの盛り上がりによって培われた"ドウ・イット・ユアセルフ"な独立精神はその後今に至るクラブ・ミュージックの先駆けとなった。アンテナや、トレーシー・ソーンなどは、そんな自由なDIY精神にボサノヴァの奥深いシンプルさ(ギター一本とかシンプルな音源と歌があれば成立する)をかさね合わせ、ニューウェイヴ以降の音楽的充足をはかっていったのだと思う。あの頃、アンテナや初期のエブリシング・バット・ザ・ガールなどの音楽を通じて、ブラジルの音楽にはじめて触れた、という世代も多かったものだ。そして福富のキャリアのはじまりもニューウェイヴ期にあったわけで、アンテナたちのやり方に共感を抱いていたことは想像に難くない。さてもう一人のシンガー、アーネストの方は、ブラジルやジャズに多いに刺激を受けたクラブ・ミュージックを歌う、まさに新世代の担い手だ。エリス・レジーナやチェット・ベイカーがフェイヴァリットというアーネストは、今や「クロスオーヴァー」のもっとも優秀な産出地といわえる北欧シーンにおいて「声の顔」になりつつある存在だ。
 イザベル・アンテナとアーネストの共演。ブラジルという共通項をわかちあうことで異なる世界にいたアーティストがクロスする、必然と偶然。その間、をジョイントできるのは、クラブ・ミュージックという、ようやく20年程度の歴史をつみあげてきた自由な精神をバックグラウンドに持つ独立独歩の音楽なのだ。
 福富にとっては、その音楽のことを「ハウス・ミュージック」という言葉に置き換えてもいいかもしれない。遠くアフリカを起源に、70年代ではディスコという源流を持ち、80年代の打ち込み革命とともにあらゆるクラブ・ミュージックの土台をなすことになったパワフルなグルーヴの連なり。とてつもなくシンプルでまったくムダのない、黒いソウルの遺伝子。福富のクロス・オーヴァー・ダンス・ミュージックは、そんなハウス・ミュージックを骨格に豊かな肉付けと、研ぎ澄まされた削ぎ落とし作業を循環させることで成り立っているともいえるかもしれない。やわらかなボサノヴァの倦怠感、またはサンバのサウダージ、その一方でハード・エッジなブロークン・ビーツへと向かう姿勢。その根には、ひたすらソウルフルでゆるぎない芯から熱いソウルフルなグルーヴがある。このアルバムの中盤からの流れ......、剥き出しの黒いファンクネスがきっと今後クラブのフロアを震撼させるに違いない"Road To Nowhere"から、ヒプノテックでミニマルなグルーヴの連なりが幻惑感を刺激してやまない"Tambour"とつながるイントゥルメンタル・トラックを経て、再びのリッチ・メディーナ、そして確信に充ちたた4つ打ちビートにのせて序盤より格段にビルドアップしたアルマの真っ黒なソウルネスが炸裂するラスト、"Hooked"に至る流れ。そこには、福富サウンドの核にあるハウス・ミュージックへの深い信頼と、ソウルフルな音へ対する抜き差しならない愛情を感じてやまない。

 さて、これまで海外勢にだいぶ花を持たせた書き方をしてきたが、このアルバムを音作りをサポートしている日本人ミュージシャンたちの逞しさと豊かな音楽性のことはぜひ注目してもらいたい。スペースの都合上、詳しくは書けないが、クラブ・ジャズ・キーボーディストの第一人者ともいえる吉澤はじめ、ジャフロサックス名義などでも福富とは縁深いサックス・プレイヤーの勝田一樹、また西麻布イエローでの2000ブラック・ライヴでの好演も記憶に新しいゲンタほか、腕利きたちがズラリと揃っている。彼らのすぐれたバックアップと福富幸宏のいつも以上に妥協を許さない緻密なスタジオワークが『Equality』の説得力をここまで豊かなものにしているのである。

池谷修一/Shuichi Iketani